概要：ロチェスター大学の天体物理学者アダム・フランク、惑星科学研究所のデイビッド・グリンスプーン、アリゾナ州立大学のサラ・ウォーカーは、「思考実験」と呼ばれるものを行いました。彼らは科学的な理論を用いて、生命が惑星にどのような影響を与えるかについて探究しました。彼らは自身の研究に基づき、地球の過去と可能性のある未来を 4 つの段階で説明することができると提案しました。この記事は、phys.org の記事「Can a planet have a mind of its own?」を翻訳したもので、ロチェスター大学からの情報を元にしています（2022 年 2 月 16 日）。この記事では、研究論文「Intelligence as a planetary scale process」の内容を簡単にまとめています。
地球上のすべての生物（微生物、植物、動物を含む）の集合的な活動は、この惑星での変化をもたらしました。
植物を例に挙げると、植物は自己の生存能力を高めるために光合成を行う方法を「発明」しましたが、同時に酸素を放出し、酸素はこの惑星全体の機能を変えました。単一の生命形式が自身の任務を実行するだけで、惑星規模の効果を生み出すことができるのです。植物はその一例に過ぎません。
生物圏（生物の集合的な活動）がこの世界を変えることができるのであれば、認識の集合的な活動や認識に基づく行動の集合的な活動も惑星を変えることができるのでしょうか？生物圏が進化すると、地球自体が生命を持つようになります。生物を持つ惑星が生命を持つのであれば、それは意識を持つのでしょうか？
これがアダム・フランク、デイビッド・グリンスプーン、サラ・ウォーカーが提起した問いです。彼らの研究成果は、「国際天体生物学ジャーナル」に掲載されています（アダム・フランクはロチェスター大学の物理学と天文学の Helen F. and Fred H. Gowen 教授です）。彼らは自身の研究を「思考実験」と呼んでおり、地球に関する現在の知識を組み合わせ、生命が惑星をどのように変えるかについてより広範な問いを探究しています。これらの研究者は、彼らが「惑星的知性」と呼ぶものについて議論し、それは惑星規模で機能する認識活動であり、それによって気候変動などの地球規模の問題に対する新たなアイデアが提案されると述べています。
フランクは「自分たちの種の存続を保証したいのであれば、この惑星の福祉を向上させるために知恵を使わなければなりません」と述べています。
「未熟な技術圏」#
フランク、グリンスプーン、ウォーカーのアイデアは、ガイア仮説などの考え方から一部のインスピレーションを得ています。ガイア仮説は、生物圏が大気、水、陸地などの非生物地球システムと密接に相互作用して、生物の適した状態を維持するために地球が努力しているというものです。したがって、技術能力を持たない種でも、惑星的知性を示すことができると研究者は説明しています。その鍵は、生物の集合的な活動が自己維持システムを作り出すことです。
フランクは最近の研究の多くが、森林の木の根が地下の菌糸網によってつながっていることを示していると述べています。森の一部が栄養を必要とすると、他の部分はストレスを受けた部分に必要な栄養を供給するために菌糸網を通じて栄養を送ります。この方法により、森は自己維持能力を持つことができます。
これらの研究者は、現在の文明を「未熟な技術圏」と呼んでいます。これは、地球に直接影響を与える人間が作り出したシステムと技術の集合体であり、自己維持することができません。たとえば、私たちが使用しているエネルギーの大部分は化石燃料の燃焼から得られていますが、これは地球の海洋や大気に悪影響を与えています。私たちの生存に必要な技術とエネルギーが私たちの母星を破壊し、それによって私たちの種をさらに破壊しているのです。
私たちの種の存続のためには、地球の福祉を最優先にするために団結して行動する必要があります。
しかし、フランクは「地球の最大の福祉に共同で反応する能力をまだ持っていない」と述べています。地球には知性が存在するが、まだ惑星的知性は存在しないのです。
成熟した技術圏への道#
これらの研究者は、人類の長期的な未来における惑星的知性の役割を説明するために、地球の過去と可能性のある未来を 4 つの段階に分けました。彼らはこれらの段階が惑星的知性によって駆動される方法を示しました。彼らは、生命と持続可能な技術文明が進化する可能性のある惑星は、このような特徴を持つと考えています。
第 1 段階：未熟な生物圏：数十億年前、技術的な種が現れる前の地球の特徴です。微生物は存在していましたが、植物はまだ存在していませんでした。この時点では、生命は地球の大気や水循環などの惑星システムに対して効果的に影響を与える力を持っていませんでした。
第 2 段階：成熟した生物圏：現在から約 25 億年から 5.4 億年前までの地球の特徴です。安定した陸地、植生、光合成が広がり、大気中に酸素が蓄積され、オゾン層が形成されました。生物圏は地球に大きな影響を与え、生物の生存に適した状態を維持するのに役立っているかもしれません。
第 3 段階：未熟な技術圏：現在の地球の特徴です。相互に接続された通信、交通、技術、電力、コンピューターシステムを持っています。しかし、この段階の技術圏はまだ成熟しておらず、大気などの他の地球システムと統合されていません。それどころか、地球のシステムから物質とエネルギーを取り出し、地球全体をこの技術圏に適さない新しい状態にしてしまいます。長期的には、現在の技術圏は自身に有害です。
第 4 段階：成熟した技術圏：フランクは、地球の将来の目標は、生物圏に有害でないエネルギー形態（太陽エネルギーなど）を地球全体で収集するなど、地球に有益な技術システムを開発することだと述べています。成熟した技術圏は生物圏と共進化し、技術圏と生物圏の相互利益のあるシステムを構築するべきです。
フランクは「惑星は未熟な段階から成熟な段階に進化し、惑星的知性は成熟な段階への到達を示すものです」と述べています。「惑星的知性の真の姿を探求することは非常に価値があり、私たち自身にとっても重要な実践的意義があります。なぜなら、私たちはまだ成熟した技術圏にどのように発展するかを知らないからです。」現在、地球は「未熟な技術圏」の段階にあり、私たちが使用しているエネルギーや技術の大部分が大気などの地球システムに負の影響を与えています。フランクは、「種の存続のためには、私たちは「成熟した技術圏（mature technosphere）」の段階に進む必要があり、その時には人類は地球に有益な技術システムを持っているでしょう。」
複雑な惑星的知性システム#
現時点では、惑星的知性がどのように現れるかはまだわかりませんが、これらの研究者は成熟した技術圏が技術システムを地球と統合することを含む、フィードバックループネットワークから成る複雑なシステムであると述べています。
要するに、複雑なシステムとは、相互作用する小さな部品から構成され、それらの相互作用によってシステム全体の振る舞いが完全にその相互作用プロセスに依存するシステムのことを指します。つまり、部分の合計以上の全体が生じます。複雑なシステムの例は多くありますが、森林、インターネット、金融市場、人間の脳などがあります。
根本的には、複雑なシステムでは、個々の要素が相互作用の過程で新たな特性を生み出します。例えば、個々の神経細胞を調べても、その人の個性を知ることは難しいです。
これは、個体が惑星的知性を構成する際に生じる可能性のある特性を予測するのが困難であることを意味します。しかし、これらの研究者は、惑星的知性などの複雑なシステムは、浮上行動を示し、自己維持する能力を持つと考えています。
フランクは「数十億年前、生物圏は窒素と炭素を輸送するシステムを作り出し、それが自己維持の方法でした。」と述べています。「今、私たちは技術圏も同様の自己維持特性を持つようにする方法を見つけなければなりません。」
地球外生命の探索#
人類は環境に有害な化学物質の使用を禁止したり、太陽エネルギーをより多く利用するなど、一部の努力をしてきましたが、フランクは「私たちはまだ惑星的知性や成熟した技術圏を持っていませんが、この研究の目的は私たちが進むべき方向を示すことです。」と述べています。
フランクは、これらの問いを提起することで、地球上の生命の過去、現在、未来に関する情報を提供するだけでなく、太陽系外の生命や文明を探索する手助けにもなると述べています。フランク自身も、NASA の遠い恒星周りの惑星での文明の技術的特徴を探索するプロジェクトの主任研究員です。
「私たちが見ることができる唯一の技術文明、そして私たちが見ることを予想している技術文明は、自らを滅ぼさなかった文明です。つまり、彼らは真の惑星的知性の段階に到達しているはずです。」彼は言います。「この研究の貢献は、気候危機を乗り越えるための知識と、生命と知性が進化した他の惑星で起こりうることを結びつけることです。」